こんにちは。あきっと獣医です。
朝晩、急に寒さを感じることがでてきた今日この頃ですが、皆様おかわりありませんか?
今回は、私が、パート勤務の頃を含めて2年半くらい、治療を担当させていただいたワンちゃんのことを書きたいと思います。
温灸について書く予定でしたが、次回へ持ち越したいと思います。楽しみにしていただいいた方、大変申し訳ありません。
このワンちゃんには想い入れが本当に深かったため、どうしてもここのブログに残しておきたかったので、飼い主さんにお願いしたら、快く承諾してくださいました。
ご紹介
虎太郎くんといいます。
ミニチュア・ピンシャーの男の子です。
飼い主さんが、コタ、コタと呼んでいらっしゃったので、コタ君と呼ばせていただいていました。
コタ君は、先日、大往生を遂げて虹の橋を渡りました・・・。
11歳5ヶ月でした。
コタ君との出会い
出会いは、コタ君が椎間板ヘルニアになり後ろ足が歩けなくなってしまったことから始まります。
当初は院長先生の指名患者さんだったコタ君ですが、肝臓の数値が上がっていたため、飼い主さんはステロイドによる治療を望まず、消炎剤だけで経過をみられていました。
でも、なかなか効果は出ず、グニャりとすぐ座ってしまい、後ろ足のナックリング(足先がグーの状態で地に着いている)も戻りません。
飼い主さんはこのままずっと治らずに、車椅子になることも覚悟していたそうです。
飼い主さんご自身で鍼治療の選択肢があることを知り、院長先生に申し出てくださったところ、私が鍼治療を受け持つことになりました。一時は高度な機器や技術をもつ病院に転院されることも考えられたそうです。でも、鍼治療にかけてくださいました。
鍼治療を受ける
鍼は、効果がテキメンに出る子は翌週にはもう歩き始めます。でも、わずかな効果が出るまでに1ヶ月くらいかかるという反応の鈍い子もいるので、正直、実際にやってみないと効果の出方がわからない、ということがあります。その旨を説明すると、飼い主さんはご承諾されました。
コタ君にはマッサージと鍼、温灸を施術しました。
鍼だけでも効果はありますが、マッサージや温灸を併用することで、気持ちが安らいで交感神経を抑えたり、より血行が良くなって、効果が一層高まると経験で感じています。
コタ君はもともと病院が苦手で、とても緊張するタイプで、痛みにもとても敏感な子でした。だから、ほんの少しチクッとする鍼治療も試行錯誤が多く必要でした。それでも、なんとか頑張って治療を受け入れてくれました。飼い主さんも初めは少し恐怖心があったと思いますが、次第にこんな感じというのを受け入れてくださいました。
コタ君は最初の治療で、予想以上に効果がありました。ヨロヨロとしながらも、翌週には足が動かせるようになっていました。その後、完全にナックリングがなくなるまでは、少し時間がかかりましたが、数ヶ月続けていくと、最終的にはふらつきもほとんどなくなり、走り回ることができるようになりました。散歩にはなるべく行って欲しいとお伝えしたことを、飼い主さんもお忙しい中ちゃんと実践してくれていました。
それから2年ほど、ひと月に1回くらいのペースでずっと鍼治療を続けてくださった甲斐もあり、椎間板ヘルニアが再発することはありませんでした。鍼治療は昼限定の予約制だったので、飼い主さんが連れてこれない時は、飼い主さんのお母様が遠方からやってきて、連れて来てくださっていた時期もありました。コタ君はお母さんとのお散歩もとても楽しそうでした。
コタ君の異変
コタ君はヘルニアになる以前からクッシング症候群を疑われていました。この病気になると、水をたくさん飲むようになり、筋肉はやせてきて手足が細くなり、お腹に脂肪がついてきてしまいます。また、肝臓が悪くなり数値がとても高くなるのが特徴です。
体型の変化は現れていませんでしたが、以前院長先生がこの病気を疑って、検査をしたそうです。しかし、結果は陰性で、治療の対象にはならなかったようです。
ところが、昨年の暮れあたりだったでしょうか。なんだか手足が細くなり、力が入りにくくなり、クッシング症候群の体型や兆候が身体に現れてきてしまいました。これはやはりおかしいということで、再び検査をしました。結果は予想通り陽性でした。
コタ君の飼い主さんは飲食店の店長さんをされていて、ハードなお仕事が夜中まで続きます。いつも片付けなどが終わって家につくのはとっくに日付が変わっている時間です。お仕事が終わって、おうちに帰って、コタ君にご飯をあげると、ほんの一息の休息時間・・・。コタ君とまったりするのが、何よりも落ち着く時間だったと言います。
忙しい生活の中で、飼い主さんはコタ君のクッシング症候群の治療を始めます。定期的な血液検査、内服薬の投薬、ドッグフードの変更、、どれも手間も時間もお金もかかります。
それでも、飼い主さんは指示通りに薬を飲ませ、ドッグフードを変え、血液検査に通いました。しばらくすると、コタ君のボーンと張っていたお腹はシュッとへっこんできました。お水を飲む量も少し減りました。でも、肝臓の数値は上がる一方だったのです。
当時私はペットの食事についてまだまだ勉強不足だったため、本当は手作り食などの自然な食事の方が、身体に良いことはわかっていながらも、積極的にご提案をすることができませんでした。
ところが、飼い主さんはある時突然、「手作り食に変えた」ことを告白してくれました。
手作り食に変える
実は、他の患者さん(ワンちゃん)で、やはりクッシングの治療中で手作り食に変えたという子が、肝臓の数値が正常に戻った実例を私は知っていました。他にも、他の先生から聞いた情報や体験談などでも、手作り食に変えただけで体調が良くなった例はいくつもありました。でも、本当は教えてあげたいけど、未熟な知識では教えてあげられない、そんな葛藤がありました。
そこをあっさりと飼い主さんが打破してくださったのです。
飼い主さんは、栄養士さんでもあります。独自に色々調べたり勉強されて、コタ君の食事を作っては食べさせました。栄養が偏らないように、蛋白やビタミン、ミネラル不足にならないように、肝臓に負担にならない食事を・・・でも時々食い付きが悪かったり急に食べなくなったりと、悩みや試行錯誤がたくさんありました。コタ君の飼い主さんに情報を提供してあげられるように、私も犬猫の食事について、ペットフードや手作り食、薬膳のことなど、色々と勉強しました。そして、飼い主さんと二人で考えをめぐらせながら、コタ君の食事内容について語り合い、良いと思われるものを実践していきました。
その甲斐あってか、一時は肝臓の数値が半分近くまで下がりました。手間や食費はかかるけど、手作り食にはドライフードのような添加物も入っていない、素材も天然で新鮮、不自然な加工もしていないという良さがあるのです。
ところが、クッシングはなかなか強敵です。一筋縄ではありません。
その後また数値が上がり、食欲が落ちておかしいな?と思った頃、コタ君は突然吐き始めました。
さらなる試練
コタ君は、糖尿病を併発していました。それだけでなく、何かの細菌感染がきっかけだったのか、膵炎、肝炎と腎炎も併発していました。これは大変な事態です。
院長先生から、「多臓器不全」という言葉が発せられました。
飼い主さんはその言葉を聞いて、コタ君の死を意識したそうです。
おそらく目の前が一瞬暗くなったのではないかと思います。
ショックで、院長先生に何やら色々と説明してもらったが、ほとんど覚えていないとおっしゃっていました。
コタ君は飼い主さんから離れることにとてもナイーブで、入院も一度は試みましたが、ずっと大声で鳴き続けてしまうため、体力を消耗して返って悪くなる可能性がありました。それで、通院治療で経過を見るしかありませんでした。
そして、痛みに非常に敏感な上、おそらく腎炎のせいで腰に痛みがあったのでしょう、背中の皮下点滴をすると、その時から半日以上、ものすごく痛がって家族も触れないほどで、どっぷりと体力を消耗してしまうのでした。それでも、命をつなぐため、飼い主さんは毎日、毎日、必死に休憩時間を待ち時間に変えて、コタ君を病院に連れて行きました。
飼い主さんの決意
その頃私は勤務先には鍼治療にしか行っていなかったため、院長先生とも連絡を取りながら飼い主さんとコンタクトをとり、なんとかやっていける術(すべ)を摸索していました。
でも、治療をする度、点滴をする度にコタ君は病院が嫌になり、助けを求めて鳴きさけぶようになりました。
飼い主さんは、そんな皮下点滴に苦しみもがくコタ君の姿を見て、ある決断をします。
「皮下点滴をやめる」という決断です。
腎臓が悪い、糖尿病があって血糖値が安定しなくてケトアシドーシスを起こす、膵炎を度々起こして嘔吐する、そんな状態の子の点滴を止めるということは、もう死を覚悟した行為なのです。おそらくこれを聞いた獣医師誰もが、顔をしかめるに違いありません。
それでも、飼い主さんは、コタ君の“気持ち”を楽にしてあげる方を選びました。
こんなに苦しませて、もしこのまま虎太郎が死んでしまったら、それこそ絶対に後悔する。いったい何のための治療だったのかと、、、勧めてくれた獣医さんに怒りさえ覚えるだろうと。そう思われたそうです。
点滴には通わないが治療は続ける
こうして、コタ君は毎日の病院通いから解放されることとなりました。
鍼治療は1週間に1回の間隔になりました。私が往診診療を始めたので、お家で施術をするようになりました。でも、点滴の後遺症と言って良いのかわかりませんが、背中が痛む部分が多くて、その頃はなかなか鍼も打てない状況で、お灸や温灸、気持ちをリラックスさせてくれる漢方オイルのマッサージなどで対処していました。コタ君は温灸しながら軽くマッサージするのがとても気持ち良さそうでした。
また、飼い主さんはなるべく飲み薬は使いたくないという意向でしたが、漢方薬の効果が身体を楽にする方に働くことを説明すると、服用にも納得してくださり、鍼と平行して飲ませていただくことになりました。また、普段はあまり使わないサプリメントですが、この時ばかりは神頼み的にやってみようということになり、飲ませていただきました。
それからしばらくは、血糖値のコントロールと膵炎、肝炎と腎臓病に向き合う生活が続きます。
もともと日々忙しく寝る間も惜しむほどの生活を送られてきた飼い主さんは、さらにコタ君に費やす時間を捻出しなければなりません。しかも、膵炎や食欲のムラのせいで血糖値が安定せず、1日に何回か血糖値を自宅やお店の2階で測り、インスリンを注射するという大変なお世話を続けることになりました。高血糖になれば膵炎の症状が激しくなり、低血糖になれば発作を起こしてしまうので、その間をうまくキープできるようになるまで本当に苦労されました。
また、どうしても食べない時のために、膵炎の子向けの缶詰をシリンジで強制給餌することもお伝えして、実践していただきました。
そんな飼い主さんの気持ちを分かっていてか、コタ君も血糖値測定のための採血、インスリン注射、と、痛いことも多かったのですが、本当に頑張ってくれていました。
コタ君が生きることをあきらめていない限り、出来る限りのことをやってあげたいと、飼い主さんはおっしゃっていました。
私がコタ君のお家に顔を出した時には、いつも元気に甘えた声で鳴いてくれて、お顔を足にスリスリしてくれました。病院では通常、診察に来られるワンちゃんがこんな表情や仕草など見せてくれることはないので、本当に嬉しかったです。
すると、少しづつですが、安定の兆しが見えてきました。血糖値が測りきれないほど高くなってしまうことが少なくなってきました。自分から食べることも増えてきました。
一時は、もう長くないかも、、、という所まで来ていましたが、2ヶ月くらい経過した頃でしょうか。
すっかりと色々がそぎ落とされ、おじいちゃんのように老けてしまったコタ君でしたが、なんと、安定するところまで持ち越しました。もう膵炎はほぼ治まったと言える状態でした。
奇跡の復活
本当に奇跡的な出来事でした。
そこには飼い主さんの強い想い、コタ君の生きようとする想い、それらを応援してくれた周りの方々の想い、、、
たくさんの想いと愛があふれていました。
私は西洋医学が悪だとは全く思っていません。特に早急に感染を押さえてあげなくてはならないような状況だったり、出血を物理的に止めなければならない状況だったり、胸の中に溜まっている水が心臓や肺を圧迫して命に関わる状況だったり、多々ありますが、そんな時には西洋医学の力を借りなければ命が助からないことも沢山あるのです。
だから西洋医学の治療の存在がなくては、助からない命、回復に向かわない病状が沢山あるということを理解しています。
ところが、時に、その治療を受けること自体が、患者さんにとってものすごく精神的な負担になってしまうことがあります。これは、病気に向かうための気力を失うだけでなく、体の中の免疫力も失わせてしまうことになります。
心と体は繋がっているのです。
治療を受けるメリットよりも、治療を受けたことによるストレスによるデメリットの方が大きく上回ってしまう時、おそらくそれは治療の成功への道からはずれてしまっているのではないか、と私は思います。
こんな時に、少しでも手助けになることができるのが、中医学なのかな、と思います。鍼治療は少し痛みが伴うこともありますが、マッサージや温灸など気持ちの良い手技もありますし、薬膳や漢方薬などは管理さえコンスタントにできれば患者の苦痛はほとんどありません。コタ君のように、西洋医学の治療があまりできない子におすすめできるケース、西洋医学の治療も行うがそれを補助するためにおすすめできるケースなど様々です。
私の力不足で、病気を克服するところまで導いてあげることができなかったのは非常に残念ですし、課題となりました。それでも、中医学の治療でコタ君の気持ちや体の辛さ、飼い主さんのお気持ちを少しでも楽にして差しあげられたことは、大きな成果だと思っています。コタ君と飼い主さんを通じて、沢山の事を学ばせていただいた私なのでした。
次なる夢は・・・
さて、飼い主さんには、コタ君とやりたいことがありました。
そのひとつは、「一緒に旅行に行くこと」です。
今回はここまでで(前編)とさせていただきまして、続きは(後編)の方でお話させていただきます。
後編も是非ご愛読いただけると幸いです。
*一度公開してから読み直したら、あまりにも不出来で、飼い主さんにも申し訳なかったため、再度編集してから再公開に至りました。途中で読めなくなっていた方がもしいらっしゃったら、大変申し訳ありませんでしたmm。
自分の文章力の低さには毎回、、、本を読んでこなかった事でこれほど苦労するとは(反省)。子供にはたくさん本を読ませてあげようと思います。