こんにちは!あきっと獣医です!
いつも当ブログを読んでいただき、ありがとうございます^^
今回は、私が約2年半、治療のお手伝いをさせていただいたワンちゃんのご紹介の後編です。
前編はこちら→
早速ですが、本編に入っていこうと思います。
飼い主さんは、コタ君を連れて旅行に行きたいと願っていました。
お店を始めてからはきっと旅行なんてほとんど行けていなかったでしょうし、多臓器不全という言葉を聞いてからは、もうあまり長くないのかもしれない、という覚悟もあったのでしょう。お別れの時までに、どうしてもやり遂げておきたいことの一つでした。
私がそのお話を伺った時は、もう夏も半ばという猛暑の頃でした。その頃は、食欲のムラはまだちらほらあるけれど、吐き気もなく、調子の良い時などは、50cmくらいの高さの所からジャンプして降りて走って行ってしまうほど、コタ君は元気になっていました。でも、コタ君の体力や体調を考えると、私は正直、どうなのかな?できるかな?近場だったらなんとかいけるかな~?という感覚でした。
私の見立てでは
中医学的にみると、コタ君は「腎陰虚と肝鬱気滞(からの脾虚)」という証がベースにあり、さらにそこから「肝胆湿熱証、脾胃湿熱証」を呈するという、とても複雑な病態でした。
症状はずいぶんと下火にはなっていても、なかなか完全に抜けるというのは難しいようでした。
「湿熱証」の子は、高温多湿の、日本の気候・・・梅雨の終盤や蒸し暑い夏、という季節が大の苦手です。もともと体の内部に湿熱があるのに、さらに外からの湿邪や暑邪の影響を受けると、非常にしんどくなるし、悪化する危険もあります。
でも、コタ君の飼い主さんは、海を見たことがないコタ君にどうしても海を見せてあげたくて、遠出を決意したようです。
体調が安定している今がチャンスとばかりに、その旅行は決行されました。
いざ!!
横須賀港の周辺を旅行されたようで、海を見たり、ワンちゃんと一緒に入れる水族館に行ったり(http://www.aburatsubo.co.jp/index.php)、老犬や病気の子を預かる施設にほんの少しだけコタ君を預けるという体験もされたそうです。
コタ君と一緒にあちこち回れて色んな体験ができて、とにかく美味しいものをたくさん食べて飲んで、気持ちもゆったりとできたそうで、本当に楽しかった!!とおっしゃっていました。
注目していただきたいのは、コタ君のこの表情です!
目がキラキラしていて、若々しくて、いつものコタ君とは別犬です(笑)
見たことのない景色、動物、食べ物、そんな風景や体験を、ワンちゃんも楽しんでくれるものなのですね。
老犬の施設では、コタ君よりもずっと歳上のワンちゃんが沢山いて、認知症でぐるぐる回っていたり、寝たきりに近い状態だったりして、そんなワンちゃん達を見て飼い主さんはかなり驚かれたそうです。
でも、そのワンちゃん達が優しく手厚い看護を受けて、元気に暮らしている様子を見て、飼い主さんは、コタは意識もしっかりしているし、ちゃんと歩けているし、まだまだ元気、まだまだ行ける!と、勇気付けられたそうです。
また、飼い主さんは、将来ワンちゃんの栄養士さんとして、ペットフードを開発したり、施設の運営もやりたいという夢も持っていらっしゃいます。だからその施設を利用してみて、中身をじっくり見れたことは、非常に有益な体験だったとおっしゃっていました。
飼い主さんの抜かりない準備
こんなに素晴らしいキラキラした体験となった横須賀の旅行ですが、病気のコタ君に少しでも負担にならないようにと、飼い主さんが裏で色々と工夫したり努力なさっていたことは言うまでもありません。
多飲多尿のコタ君ですから、こまめな水分補給やオムツ交換、暑さにやられないようにいつも保冷用の氷をしのばせておいたり、涼しい所での休憩もたくさん取らせていたそうです。
薬やご飯だけでなく、急に体調が悪くなることも考えて、病院を調べておくなどして、不安な要素はすべて押さえて備えられていたようです。
帰路に着く際、飼い主さん達がトイレ休憩をしている間に、車の中でなんとコタ君が骨付きチキンをかじってしまう、というとんでもハプニングもありましたが、無事にお家まで帰ってこれたことは本当に良かったですね。
コタは本当に周りの人達に恵まれているんです。ここまでこれたのも、本当に皆さんのお陰です、と、いつも感謝の気持ちを忘れない飼い主さん。
今回の旅行も、色々な人や出会いに深く感謝できた旅だったと、おっしゃっていました。
旅が終わって・・・
土産話をお聞きして、写真を見せてもらった時、私は本当に涙が出そうでした。
今まで本当に頑張ってやってこられて、良かったね。
思い出に残る旅行ができて本当に良かったね。
と、心の中で何度もつぶやいていました。
世の中には色々な考え方があるのは理解していますので、決して押し付けではないのですが・・・。
私は、もしも、寿命が少しだけ短くなったとしても、一緒に胸がこみ上げるほど感動したり、一緒にキラキラと輝く瞬間があったり、同じ体験を通して心を通わせることができる瞬間があったり、、、
人とペットはできればそういう人生、ペット生を生きて欲しいな、と思います。それでこそ、出会った意味があるのかな、とさえ思います。
飼い主さんとペットの間には、ずっと積み上げてこられた信頼関係があって、一緒に体験したり共感したりする中で、お互いが一生懸命生きていることを分かちあっているのかな、と思います。
毎日顔を合わせて、ごはんをあげて、お散歩して、お世話する。そんな単調に見える暮らしの中でも、お互いに、今日はご機嫌どうかな?体調は良さそうかな?そんな言葉にならない会話があるのではないでしょうか?
その延長線上で、普段とは違う何か特別なことがあった時、それは輝く時間となり感動となり思い出となるのかな、と、思います。
コタ君と飼い主さんに関われたことで、私は二人のそんな嬉しい特別が訪れるように、少しだけお手伝いできたのではないかと、温かな気持ちになれました。
心がけたいこと
人もペットも、いつまでも楽しく暮らせるように。
病気にならないように日頃からできる範囲で養生をする。
病気になった時も、なるべく心と体が自分で治す意思を取り戻すようにする。
そういう心構えをしていると、体調の変化にも敏感に反応できますし、すぐに対応することで、病気にもなりにくくなります。
そういった健康管理に非常に有効なのが、中医学の考えを基にした養生法だと思っています。
もちろん、理想通りにいかないことは山ほどあります。
一度重い病気になってしまうと、もとの健康な状態に戻すのは至難の業です。
また、人間の生活に依存せざるを得ないペットは、生活環境を変えたくてもなかなか難しい場合があります。
今回のコタ君も、理想は、朝は早起きしてご飯食べて、夜はもっと早くに食餌をとらせてもっと早くに眠らせてあげる、そういう体内時計に従った規則的な生活でした。それができていたら、治療の予後も違っていたかもしれません。
特にクッシング症候群や他のホルモン疾患のように、脳の下垂体という所が関与する疾患は、睡眠、ストレスや心の安定、体内時計、自律神経バランス、ホルモンバランス、そういったものが、とても大きく影響すると考えています。中医学でいうと肝や腎、心ですね。
コタ君の飼い主さんも、そのことをよく分かっておられました。
でも、飼い主さんは、ご自身の生活やコタ君の治療費のため、お仕事のスタイルを変えることはできませんでした。当然それに伴ってコタ君の生活スタイルもなかなか変えることは難しかったようです。
それでも、何度かお話をすると、お忙しい中でも少しでも改善してあげようと必死で調整されようとしていました。お仕事を変えた方が良いのではないかと何度も悩んでおられました。夜中の食餌をなるべく早い時間に移行されたり、飼い主さんがお仕事中は一人で寂しくならないように、ご家族に面倒を見てもらったり、お散歩も手伝ってもらったり。
でも、預かってくれる家族が可愛さのあまりに甘い物や油っこいものをあげてしまうこともあり、ものすごい葛藤もありました。手作りの低脂肪低糖質おやつを作って渡して、それを食べさせてもらうようにお願いしたりもされていました。
コタ君の飼い主さんは、とにかく一生懸命努力されていました。
それから1ヶ月余り・・・
その後、コタ君は1ヶ月以上、元気に過ごしていました。
そして、10月の初めに、飼い主さんと旅行中に、突然、息を引き取りました。
飼い主さんが異変に気づいた時には、もう既にほとんど息がなかったようです。
あまりにあっけなく行ってしまい、はじめ何が起こったのか、何をしていたのかわからなかったそうです。
それでも、最後まで一緒に元気に過ごして、美味しいものも食べられて、コタ君と二人だけで楽しいひと時を共有できて、本当に良かったと、飼い主さんはおっしゃっていました。
飼い主さんは、コタ君のために、盛大なお別れ会を開きました。
沢山の方が参列し、その死を惜しんでいました。
溢れるほどのお花やプレゼントやお手紙がコタ君を囲み、飾られていました。
飼い主さんを通して、いかに多くの方にコタ君が可愛がられていたかが良くわかりました。
コタ君は幸せそうでした。
ありがたいことに、その中に、私も家族で呼んでいただきました。
私は今までに見たこともない安らかなお顔を拝み、コタ君に最後のお別れとお礼を言うことができました。
このような大切な時間と空間を共有させていただけたことに、心から感謝しています。
一歩一歩、前へ・・・
11年と5ヶ月。
コタ君と過ごした長い長い時間と沢山の空間は、飼い主さんの人生にあまりにも大きく刻み込まれています。
心の中に大きく存在していたコタ君。
いつもの時間にここに居ない。声がしない。薬もあげる心配をしなくて良い。
こんな時、いつもだったらどうしていたっけ?
コタ君を通して考えていたこと、行動していたことが、なんと多かったことか。
今、コタ君のいない現実に、揺れる心にどうやって向き合えばよいか、飼い主さんは模索しています。答えが見つかるまでは、色々試してみないとわからないですし、 時間も必要になるのでしょう。
それでも、ご自身の気持ちと向き合おうとして、先を見ているのです。
本当に立派だと思います。頭が下がる思いです。
「ペットロス」という言葉が定着したのは、いつの頃だったでしょうか。
関係のない人からすれば、ペットに執着しすぎた特殊な人間に起こること、のように、特別なことのように感じてしまいますが、私はそうは思いません。
家族を失って、すぐに立ち直れる人がいるでしょうか?
相方を失って何年も普通の生活に戻れない方、以前のその人とは全く別人になってしまう方など、傷ついた心が何年も癒えない方もたくさんいらっしゃいます。
ペットが亡くなってから、しばらく塞ぎ込んでしまうことなんて、当たり前ではないでしょうか。
無理に気持ちに蓋をしようとすると、心のバランスがとれなくなって、壊れてしまうこともあります。
悲しくていい。
悲しんでいいんですよね。
ペットとは
子供のように愛くるしく甘えてくるけれど、いつでもそばにいて、癒してくれる。
辛い時には元気付けてくれる先輩のようでもあり、
迷った時には相談にのってくれる相棒でもあり。
いつも隣にいてくれる友人でもあり、
時には守ってあげなきゃと奮い立たせてくれる小さな存在。
そして、死ぬまで飼い主さんの元にいて
飼い主さんのことを何より理解してくれて、愛してくれている。
そんな、本当に不思議な存在。
いつもそこにはぬくもりがある。
人間とは違うのだけれど、やっぱり家族なんですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
前編、後編ともに、ブログ掲載を了承し、大切な思い出の写真を何枚もお貸しくださいましたコタ君ママとコタ君、ならびに、写真掲載許可をくださいましたアルバイトの方に、感謝申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
次回は、温灸器の使い方や温める部位などについて、ご紹介いたします。
どうぞ、お楽しみに^^